『トリツカレ男』名古屋公演CM
ピアノ |
何がいいって、ピアノの音がいいんです。
だってタイトルがピアノだもんね。で、そのピアノで奏でる曲の素晴らしい数々。そしてピアノを囲む仲間たちの音のあったかいこと。 ラストの『トゥインクル』でのASA-CHANGのにこやかなドラム、永積タカシの天から降り注がれるような美しいコーラスには何度聴いてもうっとり。 このセッションには笑顔が溢れてます。 いい音楽とは昼夜問わず、どんなときでも聴けて、知らぬ間に口ずさんでたり、思わず口笛が洩れてしまうようなもの。 小春日和なんかに寝転がって聴くのが一番最高だろな。 雑誌クウネルの世界にも通じるな。 こういうなんでもない自然な生活を送ってるのが一番幸福なんだよな。 そんな音楽。余計なもののない無添加な音楽。 血がさらさらになるような音楽。 ちと誉め過ぎ? いや、ほんとにいいんだから。 |
白の鳥と黒の鳥 (角川文庫) |
いしいしんじさんの短編集です。
なんか……いいんだよ……いいんだって………! これじゃ説明になってないな……あーでもこの独特な読後感はちょっと言葉にしにくいです。 物語の芳醇な要素を抽出凝縮し奇想を贅沢にぶちこんだ聖俗清濁併せ呑む短編が収録されてるのですが、いしいしんじさんはファンタジー要素をまるっとぬいた現実の悲哀を描かせても上手い!と炙ったスルメのごとく噛み締めました。 滑稽味のある人物造形がその裏にひそむ哀しみを引き立てるというか……ひょうたん島さながら泣くのはいやだ笑っちゃお的な人の日常の一瞬が切り取られていて、胸が詰まる。 中年にさしかかったニューハーフの孤独な暮らしを描く「紫の化粧」、河原の彼岸と此岸に分かれてのホームレスのカラオケ合戦「薄い金髪のジェーン」など、もうね……こういう話も書けるのかと懐の広さに驚かされました。 人は本質的に汚いということ。 でもそれだけじゃないということ。 居場所を失って河原に流れてきたジェーンが呟く言葉、「俺、ず、ずっとこの着物着てるよ。そ、そうすりゃきっと、も、もっとちゃんと、み、みんな俺のこと好いてくれんだろよ」がたまらなく切ない。 「肉屋おうむ」の息子が死の床の父の耳元で囁く言葉、「カラタチとブルーベル」のおまじないに目から涙がこぼれた。 そんないい話があるかと思えば、「赤と青の双子」に出てくる奈津川家さながら異形の家族にぎょっとする。 跡継ぎの長男、父に疎まれる白痴の次男、赤男青男とぞんざいな名前を付けられた末の双子のみ溺愛する母、酒乱の父。 家の呪縛から逃れられないと悟った長男の最後の言葉がひしひしとおそろしい……背筋が冷える短編です。 「すげかえられた顔色」は世にも奇妙な物語で実写化されたらさぞ怖そうなシュールな一編。「紅葉狩り顛末」の大胆な奇想、老マタギ二人のかっこよさに痺れた……! 「ボーリングピンが立つ場所」は傑作です。 |
ぶらんこ乗り (新潮文庫) |
ぶらんこに乗るのと、指を鳴らすのが得意で、声を失うのとひきかえに動物の言葉が分かるようになった物語作りの天才。
この世と、この世ならざるものとの間をいったりきたりしながら作る、作中の彼のお話には引き込まれるような力がある。 嘘か本当かは関係なく、いつも見てる世界の中の何かいつもと違うものを目の前に差し出されたような不思議な感覚。 この世と、この世ならざるもの。いったりきたりする彼の力で、彼女は救われる。 彼のさびしそうな心優しさに胸を打たれる。 彼はその力を使いはたしてしまったのか。雪空に指の音の余韻が残るような終わり方も切ない。 |
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