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嘔吐
「サルトルの世紀は終わった」としばし言われる。「それでもサルトルはすごい」とも言われる。なぜ、サルトルは消え去らないのか。一時代を築いたにも関わらず今では誰一人読まない作家、思想家は腐るほどいる。サルトルも早く穏やかな作家的死をむかえたらどうなのか。「嘔吐」(la nausee)もまさにそう、知的で恵まれたインテリの甘えた独り言に過ぎないではないか。
しかし、いくら悪態をつかれてもなぜか読み継がれるのは、サルトルの一種の平等感にあるのかもしれない。サルトルは、インテリだからといって、インテリから見た世界、という前提を置かない。決して自己を限定しない。自分がインテリであることを自覚しながらも、自己の見た狭い世界を、全世界として人々に言表するときの彼の押し付けがましさには感動的なものがある。
この時サルトルは、もはや何となくすごいこと言ってそうな、深い知識や感性を秘めていそうな作家とは一線を画する。サルトルという一人の、個人的にはあまり付き合いたくない人間を感じる。それがサルトルの偉大さではないだろうか。「嘔吐」も決して美しい文学作品でも、文学の形式をとった優れた優れた哲学作品でもない。しかし、そこにはどうしようもない一人の人間がいるのだ。
「人間の世紀は終わった」と言われて久しいが、サルトルが読み継がれているということは、そんなことはないのかもしれない、とも思う。
とにかく、人々の共感と尊敬、批判と嘲笑を集めてきたこの作品、一読の価値はあるはず!

 

実存主義とは何か
 本書はサルトルが出版を後悔した本である。
 それはなにゆえか。
 すなわちこの講演だけでサルトル哲学を分かった積もりになる輩がたくさん出現したためである。その誤解は甚だしかった。
 六十年代日本でサルトルが知的ブームになったときも学生は大概本書止まりだったらしい。そうしてサルトルは誤解され続けてきて現在に至る。
 「存在と無」を読んだ上で本書を読むと興味深い点があるかもしれない。しかし「存在と無」を読んだ人にとってはその内容の密度の薄さに幻滅するかもしれないけれども。
 本書はサルトルの提唱した「実存主義」についてサルトル自身が平易に述べたものであるが、あくまで平易に述べたものであり、あくまで「講演」なのであることを念頭において、これがサルトル哲学の全てだ、と思わなければ本書はサルトル入門に絶好のものであろう。

 

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